Saturday, February 25, 2017

Today's Book - 舞台

自意識過剰な主人公の思考回路が面白くもあり、悲しくもある。時には主人公と一体化し、時にはドローンのようなものになり主人公を追いかけ、マンハッタンを東西南北に駆け巡る。そのスピードはマンハッタンそのものだ。色々な表情を見せる街は、そのどの一角を切り取っても美しい。例えそれが汚物にまみれたものだとしても。

【引用】
社会には、「ここまではセーフ」「ここからはアウト」というラインが、目に見えないが、厳然としてある。服装や目つき、ものの言い方や仕草、あらゆることにそのラインはあって、俺たちはそのラインを超えないように、「正解」の中にい続けられるように、意識的であれ、無意識であれ生活している。そして少しでも「あっち側」に行った人間がいると、嘲笑したり、ときには恐怖したりして、結果、排除するのだ。(135ページ)

俺は、自分自身に対して、演技をしている。自分を欺く者に、本当の姿などない。そのことだって、分かっていたはずだ。ずっと分かっていたはずだった。でもやはり苦しいのは、そんな自分を、どうしようもなく嫌だと思うからだ。俺は一生、この苦しみと付き合わなければいけない。自分を欺き、演じて、そのことに嫌悪し、だが決してやめられない。俺はそうやって、一生、苦しんでゆくのだ。(177ページ)

苦しみは可視化できない。傷口から血が流れるようには、それが地面を濡らすようには、苦しみは姿を現さない。(184ページ)

【あらすじ・内容 】
「生きているだけで恥ずかしい――。」自意識過剰な青年の、馬鹿馬鹿しくも切ない魂のドラマ! 29歳の葉太はある目的のためにニューヨークを訪れる。初めての一人旅、初めての海外に、ガイドブックを暗記して臨んだ葉太だったが、滞在初日で盗難に遭い、無一文になってしまう。虚栄心と羞恥心に縛られた葉太は、助けを求めることすらできないまま、マンハッタンを彷徨う羽目に……。決死の街歩きを経て、葉太が目にした衝撃的な光景とは――? 思い切り笑い、最後にはきっと泣いてしまう。圧倒的な面白さで読ませる、西加奈子の新境地長編小説!(読書メーター




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