Wednesday, April 16, 2008

Motown House 1

ホントは家に連れ込んでイチャイチャしようと思ってたのに、だからコンビニにわざわざ寄ってビールとポテトチップスを買ったのに、そんな私の下心はお見通しで、彼はタクシーの運転手さんに六本木まで言ってくださいと告げた。 思うとおりにならないからと私が不機嫌にならないように、買ったばかりのビールの栓をシュパっとあけて手渡した。 

彼の横顔越しに窓の外を流れていく街灯りを見ながら、あー家じゃなくて、なんだ六本木かーと思いつつ、でも最初のデートの楽しかった時間を思い出していた。 あの時も、しこたまワインを飲んだ後、こうやって六本木へ繰り出したんだっけ。 

あの日、インターナショナルな店内どこを探しても彼みたいな可愛い子はいなかったし、オヤジたち&オバサンたちの羨望の眼差しを受けながら、彼みたいな可愛い子と踊るのは楽しかったし、彼がひとりで踊っているのをちょっぴり自慢げな気分で眺めているのも気持ちよかったし。 踊りつかれたらテーブルに戻って、両足で彼のカラダを包み込んで逃げられないようにしてから、ひと目もはばからず長い間キスをして。 汗で肌に張り付いたシャツの上から、彼の整ったカラダを触る私。 なんて色っぽいシーンなんだろうってワインの酔い以上にそのシチュエーションに酔ってた。 

まったく同じパターンで、今回も六本木の同じ店へ。 

店の前でタクシーが止まり、右手で缶ビールを持ちながら、左手は彼の右手に重ねて、車を降りた。 店の入り口でセキュリティーの外国人にすんなりビールを取り上げられちゃっても怒らない私。 そんな私をいい子だねっていう目で彼は見つめてた。 

平日の22時だっていうのに、店内はふたりが縦に並んで進むしかないくらい混んでいて、明日も仕事でしょう、みなさん、ってちょっと呆れながら、前回同様、店の奥のテーブルにたどり着いた。 何飲む?って彼に聞かれて、うーんって悩む表情をしたら、あっという間に彼はバーカウンターに消えていった。 そして白ワインを手に戻ってきた彼は、得意げに笑って、はいってグラスをテーブルに置いた。 4ヶ月も一緒にいるとそういう小さなことが言わなくても分かってくる。 そういうことが嬉しくて、私はありがとうって言って笑い返した。

彼も私もジャケットを脱いで、踊る気マンマン。 知ってる曲がかかるのを、まるで獲物を狙うようにして待った。 彼を背後から抱きしめながら、ふたりがフロアーに出たら、きっと周りのみんながよだれを垂らして羨ましがるだろう。 ものすごく格好よく踊ろうって思いながら、私の腕の中ですでに踊りだしている彼に合わせてリズムを刻んだ。

私たちは相性がいい。 それは初めて踊った瞬間に分かったこと。 誘ってくるほかの男の人たちと踊りながらも、少し離れたところで踊る彼に視線を送りながら、そう思ってた。 時々、行き過ぎた動きをしたりする男の人の腕の中で、助けてっていう顔をすると、必ず彼が飛んできて私の手をとり、彼の腕の中に戻してくれる。 ちょっと彼が遠くへ行ってしまって、昔遊んだ外国人のモデルの女の子と話しているんだろうなあと思って悲しくなって、この目の前の知らない男の人と一緒に店を出ちゃおうかなあと思い始めた時、絶妙なタイミングで彼が戻ってくる。 ワインおかわりは? ちょっとスネた顔でうんっていうと、バーカウンターに向かう前、あ、忘れてたっていう感じで、軽くキスして安心させてくれる。 

「彼女、昔はモデルで、その時はよく家まで送っていったんだ。 何もしないで、俺は床で寝て、だからかな、彼女にすごく信頼されて。 でも今はモデルの仕事はやってなくて、娼婦になっちゃった。 なんだか悲しいな。」

いろいろな人種の人の腕から腕へ踊りわたる私は、彼の目には娼婦みたいにうつっていないんだろうか? 爆音で流れる音楽がどんどん小さくなっていくような錯覚の中、彼のそういう過去の話にもいちいち嫉妬しちゃう私は、踊ろうよっていう彼の誘いに、いいからひとりで踊っておいでよ、なんて強がりながら、でも内心ものすごく気弱になってた。 

彼がトイレに消えたのを見届けてから携帯をチェックすると、年上の彼から 「朝まで楽しんでね」 というメール。 その短い文を読んだ瞬間、その昔、コリアンタウンで、心臓を押さえてパニックになってしまった時のことを思い出した。 もうそんな風に自分でコントロールできなくなるまでやるんだったら二度とやるなよ、って、当時のBFに散々怒られながら、クイーンズまでのタクシーの中で泪が止まらなかった。 キラキラした時間はかならず、朝日と共に終わる。 そして残るのは、お尻の筋肉痛と、夕方まで治らない二日酔いと、遊びすぎた後のほんの少しの自己嫌悪。 

テーブルに戻ってきた彼に 「ねえ、仕事やめるからさ、私を雇ってよ」というと、「東京店を出したらね」と笑った。 「日本で一番高いウエイトレスになるよ」 そう言われて、その昔、「アヤコは政治家か宗教家になったらいいよ」 って言ってくれたBFのことを思い出した。 ものすごく嬉しくなって、ホントにそんな日がくればいいのになあと思ってしまった私。

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