Friday, August 25, 2006

ありがとう

駅まであと5分、というところで急に雨が降り出した。
すぐにやむだろうと思っていた私の期待を裏切って、
あっという間に本降りになってしまった。
いくら雨に濡れるのが好き、と言っても、
これから仕事にいこうとしているとき、は別だ。

服が、髪が、かばんが、雨を吸って重くなる。
サンダルの中、裸の足がすべる。

次の瞬間、車が私の歩く歩道に幅寄せして止まった。
モスグリーンの、ジープみたいな、軽自動車。
運転席の女の人が窓ごしに何か叫んでる。
iPodのイヤホンをはずし、「何ですか?」という表情をつくる私。

女の人が車から降りてくる。
手には黒い傘を持っている。
「お嬢さん、これ使って。せっかくのきれいな御髪が・・・。」

50歳半ばくらいのその女性は、ひざ丈のムームーを着ている。
濃い緑と紺の大きな柄、ジバンシーのスーツにありそうな。
差し出した傘を握る手は、年月を重ねた女性特有のもので、
その数本の指には、金色の指輪が飾られていた。
そのまま視線を上に移す。
広く開いた胸のあたりには日焼けによるシミが目立ち、
手と同様の「年輪」が刻まれている。
首の周りには、ゴールドのネックレスが重ねられている。
ゆるくアップにした髪にはやわらかいウェーブがかかっていて、
その髪の一本一本に雨の雫が張り付いている。

昔から私は大人びていた。
中学1年生のときは、新社会人に間違われ、
高校3年生のときは、28歳くらいだろうと言われた。
昔はそれがとても嫌だった。
その私が、37歳にして、「お嬢さん」と声をかけらた。
くすぐったくて、少しだけ申し訳ない気分。

走り去る車と共に消えてゆく女性に向かい、何度も繰り返す。
ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・。

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