Sunday, August 27, 2006

家族の絆

入院中の祖母の容態が悪化し、大部屋から個室へ移ったという知らせが入ったのは昨日のお昼すぎのこと。今日は私も実家へ向かい、南大沢から叔父と叔母と従弟もかけつけた。

病室に入ると祖母が力なく横たわっていて鼻からは酸素を入れていた。1ヶ月前に面会に来たときはまだ自分で起き上がり、トイレに行ったり、髪をといたりしていた。車椅子を借りて外の空気を吸いにいったりもした。でも今はトイレにも行くこともできず、起き上がることもできない。ただ横になり、何度か手伝ったもらって寝返りを打ち、苦しみに絶える毎日だ。痛みを和らげるために毎晩座薬をいれているがその副作用からか1日に2回くらいは吐いてしまう、寝ている時間が今はほとんどだ、と母がみんなに告げる。

今日は祖母の90回目のバースデー。叔父たちはバラの大きなアレンジメントを、私たちはバースデーケーキを用意した。9本では縁起が悪いということで10本のキャンドルをたて、そのうちの9本に火を点け、うとうとしている祖母に見えるよう、ベッドサイドにケーキを持って行く。

叔父が祖母に優しく声をかけて起こす。かあちゃん、今日はかあちゃんの誕生日だよ。だから、孫たちがケーキを買ってきてくれたよ。お誕生日おめでとう。祖母は弱々しく目を開け、叔父の呼びかけにうなづく。かあちゃん、ケーキ見えるか?90歳だからろうそく9本。かあちゃん、良かったな。良かったよな。

祖母はしっかりと目を開き、ケーキとその後ろに立っている私たちを見つめる。いいことばかりだったぁ。良かったぁ。みんなでご飯食べて楽しかったぁ。祖母は叔父の手を握りしっかりとした口調でそういった。そして次の瞬間、こらえきれない表情をしたたかと思ったら、声を出さずに泣き出した。その顔を見た瞬間叔母と私は、どうしようもなく切なくなってしまって、泣いてしまった。弟と従弟はじっと立ち尽くしていた。叔父は祖母を見つめていた。母は祖母の背中をなでていた。

しばらくそうしていた後、叔父が祖母に語りかけた。かあちゃん、かあちゃんの代わりに孫たちがろうそくを吹き消すよ。いいよな、かあちゃん。祖母は3回、頭をたてに振り、叔父は3回も振るなんて、すごくオッケーなんだよな、かあちゃんといって、それを聞いた私たちはなぜか笑ってしまった。

弟と従弟に挟まれてキャンドルを吹き消す。祖母が良くなりますように、なんてきっと誰も願わなかっただろう。みんなの想いはひとつ。苦しまずに逝かせてあげられますように。

祖母の具合が悪くなったのは金曜日。その時父は蒲田で飲んでいた。急いで病室に駆けつけたが、蒲田から実家へ戻るのに2時間半はかかってしまい、病院に着くともう夜中になってしまった。父は、息も絶え絶えな祖母からかなり叱られたらしい。こんなに酒臭いなんて、呼んでもいくら待っても来ないなんて、この子は何か悪いことでもしてるんじゃないだろうか。この子に墓守はまかせられない。心配で、心配で。祖母は主治医や当直の看護士さんたちにも父の素行の悪さを愚痴ったらしい。それで父はかなりしょげている。大好きなかあちゃんの期待を裏切ってしまった。かあちゃんがいうことは絶対だから、俺はどこかおかしいのかもしれない・・・。

落ち込んだ父を励まし、かばったのは他でもない、母だった。父が「立派な人」である理由をいくつもいくつも挙げて、祖母を説得、安心させた。長い間連れ添った夫婦だからこそ分かること、出来ることがあるんだなあと思い、感心した。そして私もいつか、自分の夫の最大のピンチを支えることができるような、肝の据わった妻になりたい、と思った。

私の家族は自己中心的な性格の集まりで、みんな言いたい放題で、集まれば疲れることばかりだけど、やっぱり家族が一番いい。家族の絆っていうのは、他のどんなものより強くて逞しいと思った。

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