Thursday, April 16, 2009

Under Sakura Trees













桜の花咲く季節になると思い出すシーンがある。 今となっては手の届かない甘くて切ない思い出。 
 
わたしたちはベンチに腰かけ、無数の桜の花びらが風に舞る様子を眺めていた。  それは、風に弄ばれることを拒んでいるようにも見え、また、弄ばれることを望んでいるようにも見えた。 

彼は、花びらを4枚集めて、わたしの左手の親指の付け根あたりに、桜の花を模って並べた。  「今まで、男の人に、こんなことしてもらったことある?」 彼の問いかけにわたしは、「いいえ」と答える。 

彼の手の平がわたしの手の甲に重なる。 彼は、少しだけ力をこめて、わたしの手の上にある花びらを押しつけた。 じんわりと、桜の香りが、皮膚の下にしみこんでいく。 それをわたしは、やさしいキモチで眺めていた。

「ちょっと歩こうか」 そういって彼は立ち上がり、わたしの目の前に手を差し出した。 その手をとって、わたしも立ち上がる。 わたしたちは重ねて手をそのままに、静かに歩きだした。  

わたしたちは小さな池に出会う。 その水面は、粉雪のように舞い落ちる桜の花びらで覆われていた。 水中の鯉が行ったりきたりするたびに、水面に浮かぶ花びらがあちらこちらへと漂い、それはあまりにも非現実的な景色で、わたしは思わず一瞬、ココロとカラダのバランスを失った。 そんなわたしのよろめきを察して彼は、握った手にぎゅっと力をこめた。

「離れているときも一緒のときもきみを支えるから」 はるか彼方から彼の声が聞こえてきたような気がした。


もうすぐまた彼の命日がやってくる。 

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