Wednesday, April 02, 2008

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その日私は仕事がなくて、家で彼の帰りを待っていた。 「夕飯は食べないでいるように」 っていう約束を守り、ビールは夕食にカウントされないよなあと思いながら、散々ビールを飲みながら彼の帰りを待ってた。 

12時過ぎ、彼が同僚Nとその彼女Cを連れて帰ってきて、これからブルックリンへ行くってことになって、何を着ていこうとか、マジでやばいんじゃないとか、他に何かとっていったほうがいいのかなとか、今日はもうお酒を飲んじゃったけど大丈夫とか、えー、だってお腹すいてるんですけどとか、そういうことを言い合いながら、ワイワイ、ヤイヤイいいながらタクシーに乗り込んでブリックリンへ向かった。

Tの家のちょっとしたパーティーだというから、普段着で行ったのに、Tの家に着いたら、キャンドルやら、お香やらがすごいことになっていて、あらじゃぁもっとしっかり準備したほうが良かったかもね、と思ったけど、すでに手遅れで、居間の奥にはもうすでに若いKがリラックスしていて、彼はすでにおかしな表情だった。 

到着と同時にKが、「姐さん、大好きですぅ」って駆け寄って、いつもはそんな子じゃないのに、私の手をとって撫でまくった。 「姐さんの手、気持ちいいですぅ」 彼の手はかなり汗ばんでいて、瞳孔は開きまくっているし、あきらかにおかしな様子だった。 そしてそんなKをTとその彼女のKは静かに眺めていた。

私も彼も同僚Nもその彼女Cも、かなり身構えてしまって、そしたらTが、「ひとり20ドルね」といって、パーティーにかかるお金を集金した。 まあ、ビールをしこたま飲んだって、安いワインを飲んだって、20ドルでいつも収まるようなメンツじゃないから、みんなすんなり20ドルを支払った。 安いよねって言いながら。

Tは、私たちひとりひとりに錠剤を手渡して、「たくさんお水を飲んでね」 と言った。 私と彼の同僚の彼女Cは 「負けないようにしましょうね」 と変な同盟を組んで、錠剤を飲み干し、その後しこたまお水を飲んだ。

それからしばらく、Tと彼女のKは相変わらず静かな視線のまま、ソファーで落ち着いているようだった。 若いKは相変わらず落ち着かないようで、ふざけんなっていうくらいに饒舌に、あれやこれやを話していて、あらKちゃんどうしたのって私は何度も聞いたけど、Kはそのたびに 「姐さん、大好きですぅ」 って言って、それはちょっと怖いくらいだった。

BGMはかなり早いテンポ。 セリーヌのリミックスだったような気がする。それがエンドレスにかかっていた。

そして彼が あーきたぁと言って、「俺、踊ってくるわ」 と急に踊り始めた。 私と彼の同僚Nとその彼女のCはわけの分からないまま、空間に取り残された。 でもその状態は長くは続かなくて、すぐ後に私が、あーっと言って倒れ、そのすぐ後に同僚Nがあーっと言って倒れ、その後に同僚Nの彼女Cも同じようにあーっと言って倒れた。 その後3人はアゴを食いしばって、何かに耐えるようにして、しばらく時間を過ごした。 

そうしているうちに、Tの彼女Kがトイレに駆け込み激しく吐いた。 長い時間がたったように感じたけど、もしかしたら10分未満のことだったのかもしれない。

私と同僚Nの彼女Cは、たくさんお水を飲んだせいで、トイレに行きたくなってしまって、まずはCが先に、その後に私が続いた。 

トイレから出た瞬間、Cはあり得ない言葉を吐いた。 それは彼女のボキャブラリーには絶対にない言葉で、私は耳を疑った。 あらCちゃん、何てこと言ってるの? それに対してCは 「だって、気持ちいいんですもん」 ってそう繰り返した。 そしてその後、私はトイレに入ることが怖くなったけど、我慢ができなくてついにトイレへ。 そして私もC同様、トイレから出た瞬間、あり得ない単語を、それも大きな声で、そこにいる全ての人に聞こえるように叫んだ。 

部屋の湿度はどんどん重くなっていった。 Tは彼女Kをソファーに寝かせ、介抱するふりをしながら、私たちに対してプレゼンをしはじめた。 いや、もしかしたらそれは幻想で、私たちの意識が可笑しくなっていただけかもしれないけど。

相変わらず私の彼は踊っていた。 残された私たちの唯一の頼りは同僚Nだった。 彼が崩れたら、私たち全員が崩れてしまう。 そしてそれでもいいと思っている私たちがいた。 そんな状況を把握していた同僚Nは、私と彼女Cを両脇に抱え、「お前たちはいい子たちだよ」と繰り返した。 それ以上何も、後悔するような、ことが何も起きないように、私たちをしっかり抱きしめた。

Tはその後も、あらゆるものを出してきて、悶々としている私たちを誘惑して、私たちはあと一寸で理性が壊れてしまいそうになっていたけれども、「信頼」とか「友情」とかいう確かなものにすがって、なんとか誘惑に打ち勝っていた。

そして気がついたら、朝の11時になっていて、Tはようやく諦めたように私たちを解放することにして、「車を呼んだよ」と言った。

外に出ると、太陽の光がまぶしすぎて私たちは目を開けることが出来なかった。 やっとのことで薄目を開けて前を見ると、白いストレッチ・リムジンが私たちを待っていた。 逃げるように乗り込み、そしてBQEを走った。 リムジンの中は鬼のように広いというのに、私たちは捨て猫のように丸くなって小さくなって一箇所に固まって縮こまっていた。

私たちの家、クイーンズの家に着き、リムジンを降り、私と彼はマスターベッドルームへ、同僚Nと彼女Cはゲストムームへ。 その後、私たち数時間眠れないままただベッドで丸くなっていて、多分それは同僚Nも彼女Cも同じだったと思う。

目が覚めると夕方だというのに、夏のせい、朝方の青々とした空と同じ様な空が窓の外に広がっていた。 私たちは全員腰が痛くて、喉が異常に乾いていて、でも昨夜の話をする気力・体力がなくて、向かいのチャイニースでオーダーしたパサパサのフライドライスとグリーシーなフライドヌードルを飲み込みように食べて、じゃあね、と別れた。

何か重大なことが、後悔するようなことが、起きたわけじゃない。 でも危うい場所に近寄ってしまって、そこに行ってしまいたいと思ってしまったことをみんな認識していて、それがとても恥ずかしくて、言葉にならなくて、でも無事に夜を過ごしたことに安堵していた。 

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