Wednesday, July 25, 2007

記憶に染みついた香り

香水コレクターである私は、朝の気分と体調に合わせて、香水を選ぶ。 今朝はChanelのChance Eau Fraîche、最近妹がプレゼントしてくれた香りを選んだ。

自分がいつも香水を纏っているせいか、男性にもそうであってほしいと思うのだが、日本の男の人で香水をつけることを習慣にしている人はあまり多くはない。 ほとんど体臭のない人種だからなのか、女性にアピールする必要がない文化のせいなのか、素敵な香りを纏っている男性を街中で見かけるチャンスは皆無に近い。 しかし今朝、ラッキーなことに、電車の中で、芳しい香りを放っている男性を見かけた。

彼が電車に乗り込んできた瞬間、スパイスの効いたアメリカ製の香水が周囲に漂った。 アメリカではとても人気があるが日本ではそうでもないその香水は、彼の肌からにじみ出る汗の匂い、タバコの匂い、そしてミントガムの匂いと混じり合いパーソナライズされ、新しい香りへと変化していた。 香りの先に視線をうつすと、平井堅似の20代後半の長身の男性が、グレー・ストライプのスーツに身を包み、茶色の細身バッグを手に、茶色の先細靴を履いて、背筋を伸ばして立っていた。 

視線を彼から元の位置に戻し、軽く目を閉じる。 iPodからはラテンミュージックが流れている。 深呼吸をし彼の匂いを味わうことを繰り返しているうちに、私の意識は体を抜け出て、ひとつの記憶にたどり着いた。 そしてそこでも私は、同じ香りに身を包まれていた。 ひとつの記憶が誘い水となり、ものすごいスピードで懐かしい映像が次々と浮かんでは消えてゆく。 そしてその記憶の隅々に染みついた香りの数々・・・。

ガタンと車両が揺らいだ瞬間、私は現実へと引き戻された。 相変わらず周囲に漂っている美しく、懐かしく、そして少し切ない香り。 ドアが開き、芳香の彼が降りていく。 そしてドアが閉まり、残り香が漂う車中に私は残された。 もう一度目を閉じ、過去の記憶へ旅しようかと思ったのもつかの間、私の降りる駅が次であることを知り、心の中で舌打ちする。 深呼吸して、彼の残した香りを吸い込む。 吸って、吸って、吸って、もう吸いきれないくらいまで吸って、体中にその芳しい香りを満たす。 

そしてドアが開き、私が降りる時、「私の残り香に魅了されている人はいたのだろうか?」と閉まるドアを振り返りながらふと思った。



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禁酒32日目
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