Sunday, July 09, 2006

St. Elmo's Fire



中学生の時、初めてのBFと一緒に観たのは、『St. Elmo's Fire』だった。あのころの私たちは、家族や学校や友達のことで頭を悩ませていて、人生はなんて苦しいんだろうなんて思うこともあった。今思えば、なんて小さな世界で生きていたんだろう、なんて贅沢な毎日だったんだろうと思うけれども・・・。

映画の中の同級生たちは7人組だったけれども、私たちは9人組だった。私以外のみんなは、大学や専門学校を卒業して仕事に就いていた。学生時代よりはるかに大きな世界に飛び出し、それぞれが新しい悩みを抱え戸惑っていた。みんなより遅れて大学生になった私は、、4ヶ月の夏休みと1ヶ月の冬休みには帰国し、みんなはそれを理由に毎晩集まった。飲んで歌って大騒ぎして、それぞれの悩みを吹き飛ばそうとしていた。毎朝二日酔いで、それでも毎晩また集まっては大騒ぎをした。1996年の冬を最後に私は帰国しなくなった。と同時にみんなで集まることはなくなった。1999年に帰国してからも会うことはなかった。

2001年5月31日、夜8時か9時だったと思う。仲間の1人、恵美子から電話があり、仲間の1人、剛が死んだことを知らされた。私は半同棲中のカナダ人のBFといつものようにワインを飲んでいたが、彼女の声を聴いた瞬間に何かが重大なことが起きたことを感じた。「たけぴんが、事故で、今朝、亡くなったの」。彼女の声は遠くに聞こえた。意味が分からなかった。「週末、お葬式だから、一緒に行こう、実家でまってて、迎えに行くから」。何が何だか分からなかった。電話を切った後、私はカナダ人の腕の中に倒れこんだ。「I'm sorry」と繰り返す彼の声も遠くに聞こえた。本当にみんな何を言っているんだろう。意味が分からないよ。

良く晴れた日だった。実家に着くと、なぜか両親がよそよそしかった。腫れ物に触るように私を扱っていた。両親の声も遠くに聞こえた。恵美子が迎えにきた。後ろのシートには愛娘を乗せていた。両親はまるで自分の孫を見るように顔をほころばせていた。全てがスローモーションに見えた。助手席に滑り込み、両親に手を振り、実家を後にした。

斎場に着くと、懐かしい顔があちこちにあった。みんな目を真っ赤にしていた。どうしたんだろう。たくさんの人がいるのに、彼らの声が聞こえない。まるで雪の日のように、しーんとしている。中学1年から3年までの担任・桜井先生がいる。彼が3年間担任したのは私と剛だけだった。先生の目も真っ赤で、私を見つけると、震えるように泣き出した。先生の横には剛のお母さんがいた。私に気づくと、まるで中学生のころの私に話しかけるように、「来てくれたのね」と言った。お母さんはあのころよりずっと小さく見えた。あのころはちょっと怖かった。私と彼が部屋にこもっていることを良くは思っていなかったに違いない。それでも毎日、美味しいクッキーとブルーマウンテンを部屋に運んでくれた。

全てが終わり、いよいよ最期の瞬間が近づいてきた。棺に静かに横たわる彼に触れようとしたけど、結局、彼の肌に触れることはしなかった。その肌の冷たさを感じるを避けたかったのかもしれない。周りで号泣する人たち。仲間の数人も大泣きしていた。棺にすがり泣き叫ぶ家族。その棺が狭いエレベーターのようなものの中へ移動する。ゆっくりと、そして扉が閉まる。もう永久に開くことのない扉の向こうへ彼を乗せた棺は消えていった。何も聴こえない、何も感じない、つまらない映画を見ているみたいに私は白けていた。

しばらくは今までどおりの毎日が過ぎていった。つまらないことに腹を立てカナダ人のBFにあたることもあったし、二人で夕日を見つめなから穏やかな時間を過ごすこともあった。何もかもが普通に過ぎていった。何も変わらない毎日だった。

それはとてもいい日だった。私にとってとても嬉しいことがあった日だったと思う。何だったのかは覚えていないが、とにかくとても幸せな気分で帰宅した日だった。部屋に入ったとたん、今まで感じたことのない怒りがこみ上げてきた。と同時に今まで感じたことのない悔しさと悲しみがこみ上げてきて、私は声を上げて泣き始めた。涙はいつまでも止まることがなかった。彼がこの世にいないことをはじめて実感した。嬉しいことを一番最初に話したい相手だったのに。幸せな気分を共有したいと思ったとしても、彼はもういないんだ。私たちの世界は、学生時代の比較にならないくらい大きくなって、悩みもそれに比例して大きくなったけど、喜びも同じくらい大きくなったというのに!もっともっといいことはたくさんあるのに。これからもっともっと幸せになっていくのに!!それから1年半、私は毎晩泣いた。

今日は久しぶりに『St. Elmo's Fire』を観てみた。たくさんの情景が思い出される。今の私はあのころよりずっと大きな世界で生きていると思った瞬間、それは違うという自分がいた。世界はいつも同じ大きさでそこにあり、私たちと世界との距離感が変わるだけなような気がする。年をとると老眼になり、近いものがよく見えなくなる。私たちと世界との関係もそんな感じかのかもしれない。目の前の小さなことに躍起になっていたころが懐かしい反面、もう戻りたくないとも思う。私たちの世界の全ては現実で、でも実はすべて幻想のような気もする。猟師たちが語り継ぐ、St. Elmo's Fireのように・・・。


"It's St. Elmo's Fire. Electric flashes of light that appear in dark skies out of nowhere. Sailors would guide entire journeys by it, but the joke was on them... there was no fire. There wasn't even a St. Elmo. They made it up. They made it up because they thought they needed it to keep them going when times got tough, just like you're making up all of this. We're all going through this. It's our time at the edge."

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