卒業
「卒業できない恋もある」
そう思います。
あのとき、あの喫茶店で、あなたは、ものすごく淡々と、時々キレイに笑いながら、「死ぬということ」について語ったでしょう。あなたの話をきいたわたしは、「死ぬということ」はそんなに怖いことじゃないんじゃないかなって、思いましたよ。
だからでしょうか。あなたが死んでしまったというニュースを聞いたときも、あなたのお葬式に参列したときも、わたしはビックリするくらい穏やかなキモチでいました。
きっと、あなたは、あなたが語ったように、光のなかに吸い込まれるように、この世から消えていった、そうなんじゃないかなって思いました。あなたは、あなたがいなくなったとき、わたしがものすごく辛い想いをしないように、その日の準備をするために、あの話をしてくれたんじゃないかなって思いました。
もちろん、あなたの死を受け入れることは簡単なことではなかったですよ。お葬式から帰ってきて、わたしは泣きはじめました。毎晩、1年半も、それは続きました。そして、あなたのことを思い出しても泣かずにすむようになったのは、5年がたったころでしょうか。随分ながい時間がかかりましたよ。
最後に会話したとき、ちょっとしたことで言い合いになって、「もう二度と話さない!」ってわたしが言って、電話を切ってしまいましたね。まさかあれが最後の会話になるなんて、思ってもいなかったですよ。
わたしとあなたの最後の会話は、あの電話ではなくて、あのランチの、あの、あなたが長く語った夢の話、光のなかに吸い込まれていくという、あの会話が、最後だったんだと、そう思います。そういう風に、調子よく記憶を塗り替えてます、わたし(苦笑)。
今では、日々の生活の中で、あなたのことを思い出すことはなくなりました。楽しいことも悲しいことも憤ることも辛いことも、あなたではない人に伝える毎日です。でも、時々、大江千里とか、渡辺美里とか、二人で聴いた曲を聴くと、思い出しますよ。
あなたがいなくなって、もう12年がたつのですね。あなたは若いままですけど、わたしはこんなに年老いてしまいましたよ(苦笑)。
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