Saturday, March 13, 2010

『縁』




わたしには『パパ』と呼んでる人がいる。 

『パパ』は、NY時代に働いていたお店『S』の常連さんで、
お店の『ママ』の大切なお客さまであり、
わたしたちスタッフの大好きなお客さまだった。
 
『パパ』は数年前に帰国して、今は神戸に住んでいる。 
その『パパ』と先日、横浜・中華街で、会った。
『パパ』に会うのは2年ぶり。 

「Nちゃんは、基地で働いていたけど、そこを辞めて、
しばらくは神楽坂のお店で働いていたけど、
今はまた軍人さん専用のホテルで働いているよ。」

「Yは、今は大阪に戻ってきてるよ。」

「『ママ』の娘のTちゃんは、P大学を卒業した後、
獣医になるためにフロリダの大学院に通ってるよ。」

「Aちゃんのハーレムのアパートにはクーラーがなくて、
暑い、暑いっていうから、
クーラーを買って持っていってあげたっけ。」

「『オイカワ』は『牛角』になっちゃったよ。」

「NJの『ヒロ』はもうなくなっちゃったよ。」

「『ママ』がね、お店をやる前ね、ビーズのネックレスを作ってて、
1本100ドルだっていうから、2本買って・・・。
今もまだ持ってるよ。 素人が作るようなやつだったけどね。」

「『ママ』がNJに家を買ったらしくて、引越しのお金がないっていうから、
向こうに残してきた口座のお金をあげたよ。 
使わないと口座は凍結されちゃうし、持ってても仕方ないから。」

『パパ』とわたしは、中華街の小さなお店で、たらふく食べて、
ビールを2杯ずつ飲んだ後、バーニーズのカフェへ移動した。

『パパ』は15時から昔の会社仲間と会う約束があった。
あと30分で移動しなくちゃいけないっていうタイミングで、
『パパ』が言った。 

「今、専業主夫してるんだ。」

『パパ』の奥様は数年前、アルツハイマー病だと診断され、
今ではもう自分で料理を作ることができなくなってしまった。 
『パパ』は昔からあまり口数が多いほうじゃない。
その『パパ』が、せきをきったように話しはじめた。

「昔よく食べたメキシカンをたまに作ったりしてる。
トルティーヤを買って。」

「冷凍庫は使いきらなかった食材でいっぱいだよ。
どんどん溜まる。」

「夕食にはこれを作ろうって思っても、夕食の準備となると、
気分が変わっちゃって、違うものを作ったりして・・・。
前は(妻が作ってたころは)『あれ、献立ちゃうやん』って思ったけど、
今は(妻の)キモチが分かるな。」

カフェを出て、エレベーターを待つ間に『パパ』が言った。

「痴呆症の家族を抱える会のミーティングにたまに顔を出したりするけど、
大変な話ばかりを聞かされる・・・。
たまにゴルフしたり、会社のOBたちと飲んだりして、息抜きしてる。」

なんとなく後ろめたそうに『パパ』が言うから、
わたしはたまらなくなって言った。

「わたしの祖母もアルツハイマー病だったでしょ。
で、母が在宅介護を3年半していて、母は会社と家とのいったりきたりで、
たしかに肉体的にはしんどかったと思うけど、
つきっきりで介護するより良かったんじゃないかな。
それだからさ、3年半もやれたんだと思うよ。」

『パパ』に、「それでいいじゃんよ!」って伝えたかった。

結局、『懐かしい話』を2時間くらいしちゃったけどそれは前菜で、
メインは『今の話』だったんだ。 
毎日会ってるわけじゃないから照れくさくて、
なかなかそこにたどり着けなくて、
別れる前の30分にすべてが凝縮された感じだった。

NY時代、『パパ』はいろんな歌を歌ってた。 
わたしはその中でも、『パパ』の歌う「君は心の妻だから」が好きだった。
『パパ』が歌うとじ~んときて、いつも泣いてしまった。 

『ママ』はよく言ってた。
「本当にわたしのことを愛していたら、根っこからすくって、
新しい植木鉢に植え替えてくれるものなのよ。」 
いつも『パパ』はそれを横で聞きながら笑っていたっけ。 

あの頃は、ママの味方をしたわたしだけど、
今はちょっと違う思いでいる。 
『パパ』がママにしてあげたことは、『パパ』ができるベストだったと思うし、
それは『愛』以外の何ものでもなかったと思う。 
今でも『パパ』がママのことを話すとき、ものすごく幸せそうな顔をしてるのを見ると、
『ママ』を愛してるっていうのがわかる。 
それは『パパ』の奥様への『愛』とは違う種類かもしれないけど、
たしかに『愛』なんだ。

降りる駅に近づいたとき、『パパ』が言った。
「で、彼とはどうなん?」 
わたしが答えにつまっていると、
「結婚だけがすべてじゃないよ」と『パパ』がつぶやいた。
そしてドアが開き、「ほなな」って『パパ』は降りていった。 

周りに集まる人って、年齢を重ねると変わっていく。 
それは当たり前なこと。 
だって、自分も変わるし、人も変わるし。 
でも、つかず離れず、いつまでも関わっていく人がいる。
それはなぜなんだろう?って考えると、
変わっていくスピードが同じってことや、
同じ趣味とか興味をもっているってことだけじゃなくて、
たぶん、もっと摩訶不思議な理由で共鳴しあうものがあって、
それは何か?っていうと、
『縁』ということなんじゃないかなって、思うの。 

だから、『縁』がある限り、一緒に歩いていきましょう。

No comments: