『縁』
わたしには『パパ』と呼んでる人がいる。
『パパ』は、NY時代に働いていたお店『S』の常連さんで、
お店の『ママ』の大切なお客さまであり、
わたしたちスタッフの大好きなお客さまだった。
『パパ』は数年前に帰国して、今は神戸に住んでいる。
その『パパ』と先日、横浜・中華街で、会った。
『パパ』に会うのは2年ぶり。
「Nちゃんは、基地で働いていたけど、そこを辞めて、
しばらくは神楽坂のお店で働いていたけど、
今はまた軍人さん専用のホテルで働いているよ。」
「Yは、今は大阪に戻ってきてるよ。」
「『ママ』の娘のTちゃんは、P大学を卒業した後、
獣医になるためにフロリダの大学院に通ってるよ。」
「Aちゃんのハーレムのアパートにはクーラーがなくて、
暑い、暑いっていうから、
クーラーを買って持っていってあげたっけ。」
「『オイカワ』は『牛角』になっちゃったよ。」
「NJの『ヒロ』はもうなくなっちゃったよ。」
「『ママ』がね、お店をやる前ね、ビーズのネックレスを作ってて、
1本100ドルだっていうから、2本買って・・・。
今もまだ持ってるよ。 素人が作るようなやつだったけどね。」
「『ママ』がNJに家を買ったらしくて、引越しのお金がないっていうから、
向こうに残してきた口座のお金をあげたよ。
使わないと口座は凍結されちゃうし、持ってても仕方ないから。」
『パパ』とわたしは、中華街の小さなお店で、たらふく食べて、
ビールを2杯ずつ飲んだ後、バーニーズのカフェへ移動した。
『パパ』は15時から昔の会社仲間と会う約束があった。
あと30分で移動しなくちゃいけないっていうタイミングで、
『パパ』が言った。
「今、専業主夫してるんだ。」
『パパ』の奥様は数年前、アルツハイマー病だと診断され、
今ではもう自分で料理を作ることができなくなってしまった。
『パパ』は昔からあまり口数が多いほうじゃない。
その『パパ』が、せきをきったように話しはじめた。
「昔よく食べたメキシカンをたまに作ったりしてる。
トルティーヤを買って。」
「冷凍庫は使いきらなかった食材でいっぱいだよ。
どんどん溜まる。」
「夕食にはこれを作ろうって思っても、夕食の準備となると、
気分が変わっちゃって、違うものを作ったりして・・・。
前は(妻が作ってたころは)『あれ、献立ちゃうやん』って思ったけど、
今は(妻の)キモチが分かるな。」
カフェを出て、エレベーターを待つ間に『パパ』が言った。
「痴呆症の家族を抱える会のミーティングにたまに顔を出したりするけど、
大変な話ばかりを聞かされる・・・。
たまにゴルフしたり、会社のOBたちと飲んだりして、息抜きしてる。」
なんとなく後ろめたそうに『パパ』が言うから、
わたしはたまらなくなって言った。
「わたしの祖母もアルツハイマー病だったでしょ。
で、母が在宅介護を3年半していて、母は会社と家とのいったりきたりで、
たしかに肉体的にはしんどかったと思うけど、
つきっきりで介護するより良かったんじゃないかな。
それだからさ、3年半もやれたんだと思うよ。」
『パパ』に、「それでいいじゃんよ!」って伝えたかった。
結局、『懐かしい話』を2時間くらいしちゃったけどそれは前菜で、
メインは『今の話』だったんだ。
毎日会ってるわけじゃないから照れくさくて、
なかなかそこにたどり着けなくて、
別れる前の30分にすべてが凝縮された感じだった。
NY時代、『パパ』はいろんな歌を歌ってた。
わたしはその中でも、『パパ』の歌う「君は心の妻だから」が好きだった。
『パパ』が歌うとじ~んときて、いつも泣いてしまった。
『ママ』はよく言ってた。
「本当にわたしのことを愛していたら、根っこからすくって、
新しい植木鉢に植え替えてくれるものなのよ。」
いつも『パパ』はそれを横で聞きながら笑っていたっけ。
あの頃は、ママの味方をしたわたしだけど、
今はちょっと違う思いでいる。
『パパ』がママにしてあげたことは、『パパ』ができるベストだったと思うし、
それは『愛』以外の何ものでもなかったと思う。
今でも『パパ』がママのことを話すとき、ものすごく幸せそうな顔をしてるのを見ると、
『ママ』を愛してるっていうのがわかる。
それは『パパ』の奥様への『愛』とは違う種類かもしれないけど、
たしかに『愛』なんだ。
降りる駅に近づいたとき、『パパ』が言った。
「で、彼とはどうなん?」
わたしが答えにつまっていると、
「結婚だけがすべてじゃないよ」と『パパ』がつぶやいた。
そしてドアが開き、「ほなな」って『パパ』は降りていった。
周りに集まる人って、年齢を重ねると変わっていく。
それは当たり前なこと。
だって、自分も変わるし、人も変わるし。
でも、つかず離れず、いつまでも関わっていく人がいる。
それはなぜなんだろう?って考えると、
変わっていくスピードが同じってことや、
同じ趣味とか興味をもっているってことだけじゃなくて、
たぶん、もっと摩訶不思議な理由で共鳴しあうものがあって、
それは何か?っていうと、
『縁』ということなんじゃないかなって、思うの。
だから、『縁』がある限り、一緒に歩いていきましょう。
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