Wednesday, July 26, 2006

ダンス教室のアン・ジョンファン

社交ダンス教室のドアを開けたのは、とても健全な理由からだ。
NYのレインボールームで、ディナーの途中にスッとダンスフロアーへ降りて行き、生バンドの演奏に合わせて、フロアーの誰にも負けないくらい粋に踊りたかった。フロアーの誰もが羨むくらいに、フロアーを取り囲むテーブルからはため息がこぼれるくらいに。

社交ダンスのレッスンを実際に受けようと決めたのは、しかし、下心からだ。
毎週土曜日のグループレッスンに見学に行ったとき、さえない人たちの中にアン・ジョンファン似のひときわ華やいだ存在があった。彼の身長は180センチ強、風通しのよさそうなサンドベージュのコットン&麻パンツとほどよくタイトに張り付くグレーのTシャツを着て、背筋を伸ばし、程よく肩の力の抜けた、良い姿勢で立っていた人がいた。何度かステップを間違えていたようだが、そのたびに静かに微笑み、ごめんなさいと言いながらすぐ気を取り直して次のステップへと進んでいく。そんな彼の姿に私は釘付けになり、彼もそれに気がついたのか何度となく目が合った。50分のグループレッスンが終わり、先生が私の隣に座った。「どうでしたか?」と聞かれるか聞かれないかのうちに、「申し込みします」と言っている私がいた。グループレッスンの生徒さんたちがクールダウンしているのを横目で見ながら私は、ダンスシューズや個人レッスンチケットやらを購入した。いつ、彼と一緒に踊ることができるんだろう?来週だろうか?再来週だろうか?

グループレッスンに参加できるようになるには、ある程度ステップを知らなくてはいけない、と知ったのは、個人レッスン1回目のときだった。それからは週1回だったレッスンを週2回にしてもらい、上達のスピードアップを図った。1日でも早くステップを覚えて彼と踊らなくては!

どうやら彼は、毎週水曜日7時半または8時から個人レッスンを受けているようだ。そういえば先週も7時半近辺に教室のすぐ近くの踏み切りですれ違ったっけ。

今日、私のレッスンが終わるころ、彼が教室に入ってきた。柔らかいピンク色のシャツを着ていた。そして着替えを済ませると教室のはじでストレッチを始めた。そんな様子を私は、新しく覚えたばかりのジルバのステップ(チェンジ・オブ・ポジション?)を交えて踊りながら、横目で盗み見ていた。先生が叫ぶ。「背中を丸めない!」「アタマを揺らさない!」「ターンをするときは目を残して!」「下を見ない!」「もっと腰をひねって!自分でひねる!」何もかもがなっていない私のダンスを彼は見ているのだろうか?それとも柔軟体操に集中して、私のことは無視していてくれるのだろうか?どちらにしても、ちょっと残念に思う私がいる。

あっという間にレッスンは終わった。今日は前回よりも汗をかき、前回よりも音楽が耳に届き、前回よりたくさん笑いながら&話ながら踊ることができた。やはり継続は力なり、だ。着替えを取りに行く途中、彼の前をとおりすぎた瞬間、彼が言った。「お疲れさまでした」。一瞬の出来事だった。サプライズに弱い私は、蚊のなくような声で、「お疲れさまでした」と返した。もしかしたら彼には届かなかったかもしれない。でも一瞬、彼と視線が合ったことだけは確かだった。

来週のレッスンは、残念ながら、月曜日と金曜日。きっと彼には会えないだろう。でもいつか踊れる日が来ると信じて、日々精進することにしよう。

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