微熱
街中で彼の名前を見かけるたび、胸が苦しくなる。 息が止まりそうになる。
それはタバコ屋だったり、八百屋だったり、クリーニング店だったり、床屋だったり、酒屋だったり、文房具屋だったり、洋品店だったり。
そこからリンクするのは、彼の顔ではなくて、もっとズームインしたパーツの映像。
ゴツゴツした指の関節だったり、白髪の混じる髭だったり、目元の笑い皺だったり、明るい茶色の虹彩だったり、カラダに残る手術の後だったり。
それらの映像は、まるでスライドショーのように、数秒ごとに変わっていく。 そして私は、まるで微熱が出たときのようにダルくなってしまって、何もかもがどうでもいいような気になってしまう。
会いたくて会いたくてどうしようもない。 どこへも出て行かない熱を抱えて、これからどうしよう。
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