母は、40代半ばから後半、息子は中学生くらいだった。
息子は、ダウン症。息子が発する言葉は3歳児のよう。
母は、トマトソースのスパゲッティを、息子はパニーニを注文した。
ランチセットの、グリーンピースの冷製スープが、運ばれてくる。
息子はものすごい勢いですすり始めた。
そんな息子に母は、「ゆっくり食べて」と優しく声をかけた。
スパゲッティとパニーニが運ばれてくる。
息子は、サイドに添えてあったピクルスも含め、あっという間にたいらげてしまった。
「あ、それ(ピクルス)、食べれたの」と、母。
息子は無言。
スパゲッティを、少しずつ少しずつ、口に運ぶ母を見つめていた。
四分の1くらいを食べると母は、息子の食べたパニーニの入っていた皿を持ち上げ、
スパゲッティの皿を息子の目の前にスライドして、「食べれる?」と聞いた。
息子はその質問に答えずに、バキュームのように大きな音をたてながら、
スパゲッティを吸い込んでいった。
そして、母は、店員に、ドリンクとチェックを持ってくるように声をかけ、
息子には、「ゆっくり食べて」と、声をかけた。
運ばれてきたオレンジジュースを、息子はズズズっと音をたてながら飲み干した。
母はアイスコーヒーに少し口をつけた後、
「さ、電車に乗って帰ろうか」と息子に言うと、
息子は、「ママー、ママ、ママー」と叫び、それがイエスの合図のように、
母と息子は席をたってレストランをあとにした。
ものの15分くらいの出来事だった。
母と子。
しっかりとした信頼関係、深い愛でつながった絆。
それに触れ、私は、まだまだなと、思いました。